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誰のための、何のための。 [モノローグ]

そこに立たなければ、実感できないことがある。
その場所に身を置かなければ、真にその意味を理解できない事実がある。

沖縄、広島、長崎をかつて訪れた。
すべてそうだった。

もし、人生の時間が許せば、南京とアウシュビッツへも・・・。

アウシュビッツ・ビルケナウ収容所。
ナチス=ドイツの強制絶滅収容所。
ここだけでおよそ160万人もの人々が命を奪われた。
負の世界遺産。

灰色の死の世界にも「音楽」はあった。
『アウシュビッツの音楽隊』は、ドイツ人とユダヤ人と「音楽」の、
奇妙な三角関係の延長線上にある、「音楽」と人間の不可思議な物語が
そこを生き延びた人間の記憶によって描かれている一冊。

「音楽」は、生きる歓び、慰め、癒し。
しかし「音楽」は、人間の心と身体を縛りつけ、同じ方向に人間を
追い立てる装置。

「音楽」の価値のために人は奪われ、「音楽」の歓びのために人は犠牲になる。

人間を焼き殺したあとの黒い煙を眺めながら、強制労働に駆り出される収容者たちを、
見送り、また出迎えるために、毎日演奏する音楽隊。
収容者から選ばれた死の国の音楽隊が、アウシュビッツに存在した。

「音楽」は、まるで絶望への行進曲であり、まさに死者のための鎮魂歌。
しかし「音楽」は、やはり希望の序曲であり、そして生きるための讃歌。

確かにアウシュビッツでは、その両方が混在していた。


アウシュヴィッツの音楽隊

アウシュヴィッツの音楽隊

  • 作者: シモン ラックス
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2009/04/21
  • メディア: 単行本



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