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英雄か、テロリストか・・・ [リポート]

南北戦争(1861~65年)はアメリカでは、「Civil War」(市民戦争)と呼ばれます。
エイブラハム=リンカン大統領という傑出した指導者のもとで、アメリカの歴史上最大の約62万人の
犠牲者を出しながらも、国家分裂の危機を乗り越えた国内戦争が、南北戦争でした。
戦争中のリンカンの奴隷解放宣言や、「人民の、人民による、人民のための政治・・・」で有名な
ゲティスバーグ演説、さらに戦争終結直後のリンカンの暗殺など、世界史の授業では話題に事欠かない
項目です。

たいてい南北戦争の授業のときは、教室には、南軍旗やストウ夫人の『アンクル・トムの小屋』や
リンカンの演説原稿のコピーや暗殺で使われたデリンジャー銃のレプリカなどを持ち込みますが、
やはり音にもこだわります。
かつてALTのアメリカ人講師に授業に参加してもらい、南北戦争についてQ&Aをやりとりしたり、
リンカン大統領になったつもりでゲティスバーグ演説を英語で朗読してもらったりもしました。

もちろん音楽もあります。

黒人奴隷の過酷な労働や差別を取り扱う場合は、歌詞をじっくり読みながら黒人霊歌を聴かせた
こともありましたが、奴隷制の是非が南北対立を深め、やがて戦争になったという側面から語れる材料の
ひとつとして、『リパブリック賛歌 (Battle Hymn of the Republic)』があります。

この歌はもともと、1856年頃にウィリアム=ステッフという人物によって作曲された賛美歌で、
1862年にジュリア=ウォード=ハウという女性詩人が歌詞をつけたと言われています。
戦争中に北軍の愛唱歌となり、リンカン大統領も聴いていたようです。

Mine eyes have seen the glory of the coming of the Lord,
He is trampling out the vintage where the grapes of wrath are stored,
He hath loosed the fateful lightning of His terrible swift sword,
His truth is marching on.
Glory! Glory! Hallelujah!
Glory! Glory! Hallelujah!
Glory! Glory! Hallelujah!
His truth is marching on.

私は到来する主の、栄光を見た
神の怒りの葡萄が、貯めてあるところで
主は、収穫物を踏み潰す
主は、恐怖の剣を振りかざし、運命の稲妻を落とす
主の信念は進撃してゆく
主に栄光あれ!(繰り返し)
主の信念は進撃してゆく

ところが、同じメロディで異なる歌詞が存在します。
それが『ジョン=ブラウンの屍 (John Brown’s Body)』です。

John Brown’s Body lies a-moldering in the grave,
(3回繰り返し)
But his soul goes marching on.
Glory! Glory! Hallelujah!(3回繰り返し) 
But his soul goes marching on.

ジョン=ブラウンの屍は墓の中で朽ちかかっている(3回)
しかし、彼の魂は勝ち誇って進む
グローリー グローリー ハレルヤ!(繰り返し)
彼の魂は勝ち誇って進む

これは奴隷解放論者のジョン=ブラウン(1800~59年)を称えて、歌われ、広まったものです。
奴隷解放運動に身を捧げ、黒人奴隷の蜂起によって奴隷制度を打ち破ろうとしたブラウンは、
南北戦争を始めさせた男、奴隷解放の英雄として評価される一方、
奴隷制擁護派の白人を惨殺(1856年のポタワトミーの虐殺)し、1859年10月にはヴァージニアの
ハーパーズ=フェリーにある連邦政府の武器弾薬庫を襲撃して奴隷の蜂起を呼びかけ
逮捕・処刑されるという、いわばテロリストの走りとして否定される存在でもあります。
南部の住民は彼を悪魔のように呪いましたが、リンカンでさえ彼を「妄想にとりつかれた狂信者」と呼び
ました。果たしてジョン=ブラウンは英雄的殉教者か、狂人か、テロリストか。

彼は1859年の12月に反逆罪で絞首刑になりますが、歌詞のJohn Brown’s Bodyは、
刑に処されて吊された彼の姿を表しているのでしょう。またその処刑には多くの民兵が立ち会った
ようですが、その中に後にリンカンを暗殺するジョン=ブースもいたという話もあります。

この歌はアメリカの民謡・愛国歌として今なお親しまれていますが、海を渡って日本にも伝えられました。
明治時代には賛美歌として歌われ、また新たな歌詞がつけられて『おたまじゃくしは蛙の子』や
『ともだち讃歌』となって今も歌い継がれています。
そして、某有名家電量販店のCMソングのメロディとしても・・・。 


The Civil War - Traditional American Songs And Instrumental Music Featured In The Film By Ken Burns: Original Soundtrack Recording

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Nonesuch
  • 発売日: 1990/12/29
  • メディア: CD



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